ナイスビア珍道記

ナイ珍って呼んでね

スプリントゴールって何?

今週、筑波大学のenPiT夏合宿をやっています。 大学生10チームがソフトウェアプロダクトを作るというプロジェクト型教育のなかで、1週間の夏合宿で1日1スプリントのスクラムを採用してアジャイル開発を実践しています。
ちなみに9月には琉球大学のenPiT夏合宿もやります。
詳しくは過去にいろいろ書いてきたのでそちらを参考にしてください。

miholovesq.hatenablog.com

今回は、「スプリントゴール」をうまく使いこなせないチームを目にして全体に伝えた内容に加筆して、ブログにも残しておきます。

スプリントゴールとは

現時点で最新のスクラムガイド 2020年11月版から引用します。

スプリントゴールはスプリントの唯一の目的である。スプリントゴールは開発者が確約するものだが、スプリントゴールを達成するために必要となる作業に対しては柔軟性をもたらす。スプリントゴールはまた、一貫性と集中を生み出し、スクラムチームに一致団結した作業を促すものでもある。
スプリントゴールは、スプリントプランニングで作成され、スプリントバックログに追加される。開発者がスプリントで作業するときには、スプリントゴールを念頭に置く。作業が予想と異なることが判明した場合は、スプリントゴールに影響を与えることがないように、プロダクトオーナーと交渉してスプリントバックログのスコープを調整する。

噛み砕いて、スプリントゴールは、そのスプリントをやる大義名分、スローガン、テーマ、推し、なんていう説明をしています。
学生社会人問わず、よく質問されるのは「『今回のスプリントではプロダクトバックログアイテムのこれとこれとこれをやろう』みたいなのはスプリントゴールではないんですか?」ということです。

スプリントゴールはどう使うか

スプリントゴールがプロダクトバックログアイテムを指して「これとこれとこれをやろう」になってしまうとよくない理由について、どう説明しようかとつらつら考えました。
端的に言えば、選択したその3つを完成させないとゴールが達成できない状態にしてしまうと、柔軟性がなく本質を見失いがちになるからです。

たとえ話ですが、チームみんなでディズニーランドに行く1日を1スプリントとして、そのスプリントゴールを「チームでなかよくなろう!」にした場合を考えてみましょう。
スプリントで選択したバックログアイテムが、<1. スプラッシュマウンテンに乗る>、<2. ハニーハントに乗る>、<3. ブルーバイユーで夕ご飯を食べる>、だとすると、これを3つやらなくても、やりようによっちゃ「チームでなかよくなろう!」というスプリントゴールは達成できるわけです。

たとえばハニーハントのファストパスを取れなかったり、スプラッシュマウンテンの並びが見積もりより時間かかりすぎたり、ということが途中のスタンドアップミーティングで判明します。
すると、このままではブルーバイユーの時間がなくなりそうだとわかります。
そうしたら <3. ブルーバイユーで夕ご飯を食べる> を諦めて、今回選択しなかった <4. シンデレラ城を背景に写真をとる> でも「なかよくなれそうじゃね?」って判断ができるわけです。
プロダクトオーナーが「いや、何か一緒に食べないとなかよくなれないんだ!」と主張するなら、3の実装方式を変更してキッチンカーで買ってそこらへんで食べることに変更してもいいわけです。

そういう意味でも、プロダクトバックログアイテムはよく書けたストーリーのINVESTを意識しておくとよいのです。
INVESTのNの例でいえば、<3. ブルーバイユーでご飯を食べる> よりも <3. 一緒にご飯を食べることで親睦が深まる>、<1. スプラッシュマウンテンに乗る> よりも <1. 絶叫系アトラクションで一体感を高める体験ができる> のほうがNegotiableです。
<1. スプラッシュマウンテンに乗る> に依存する <5. スプラッシュマウンテンで滝から落ちる写真を撮る> があると、Independentではなくなってしまい、プロダクトバックログの柔軟性が下がるのです。Negotiableでもありませんね。

アトラクション2つとレストラン1つが目的じゃなくて、その本質はみんなでなかよくなりたいからだよね、っていうことに合意ができることが重要なので、スローガンやテーマのほうがより柔軟で「限られた時間の中で最大の成果を出す」ことができるのですね。
「ブルーバイユーで食べられなかったけど、仲良くなれたから満足だね!」になるように知恵を絞るのが大切なんだなぁ。

追記

ネットの反応を見ていると「学生」「なかよくなる」みたいなワードが誤読を誘発するようなので、野暮と思いながら皆まで書いておきます。
このたとえ話に出たチームが作っているものは強いチームそれ自体、あるいは強いチームを作るための旅行商品かもしれません。
ソフトウェア開発チームがチームでなかよくなるために開発そっちのけでディズニーランドに行くって話じゃないんだよ。