この記事は "Regional Scrum Gathering Tokyo & Scrum Fest Advent Calendar 2023" の1日目の記事です。
わたしがAdvent Calendarを立てたので言い出しっぺが1つ目の記事を書きます。
現時点で空きがあるのでぜひエントリーしてね。
Global Scrum Gathering参加レポート
10月にオランダのアムステルダムで行われたGlobal Scrum Gathering 2023に参加してきました。
他にも参加レポートがあった気がしたんだけど、軽く検索したぐらいだとこれぐらいしか見つかりませんでした。ごめんなさい。
時間が過ぎてしまったので細かい内容を忘れかけているのですが、がんばって書いてみます。
セッション
[Keynote] Jurgen Appelo: Nothing Matters Except the (Employee/Customer) Experience
https://www.gsgams23.com/agenda/session/1188935
よくアジャイルに対する概念としてウォーターフォールが引き合いに出されるが、そんなことないでしょという主張。Experimentalism(実験主義)、Managerialism(管理主義)、Incrementalism(漸進主義)はいずれもダメで、Culminationism(集大成主義)が必要なのだ!
とくに彼の言うIncrementalismはデリバリーを細切れにすることを指していて、例として1時間半の映画を10分ごとに作ったからといって顧客に映画館に9回足を運ばせるのか、馬鹿げてるだろ、という話をしていました*1。
よくある誤解として、作り込んで最後にドカーンとリリースすることをウォーターフォールと言いながら、"最終的に" ならないと使えないものをただ細切れに見せてフィードバックをもらえばアジャイルかと言うとそんなことはないんですよね。
最終的に作るものが決まっていて、たんなる繰り返しをしているだけ。
デリバリーをインクリメンタルにするんじゃなくてユーザー体験をインクリメンタルにするんだよという話をしていました。
キャッチーな名前をつけてセールスするのはわかりやすい反面、わたしはちょっと苦手だったりするのですが、主張としては説得力もあるし面白かったです。
彼のブログにまとまっているので置いておきます。
Hard Agile, Soft Agile, and Not Agile — unFIX
写真を見てわかるように、基調講演にはスライドの下に音声の文字起こしが表示されていました。
RSGT2024でも聴覚に障がいがある方々のために日本語の文字起こしを入れる(9割機械だけど肝腎要の最後の1割は人力なんだよ)のですが、会場でもこんなレイアウトで出るといいなぁと思って見ていました。
そしてJurgenさんは地元オランダが産んだ人気スピーカーなのですよね。
ジョークを交えつつ観客とインタラクティブにやりとりしつつ、実に生き生きとプレゼンテーションしているのが印象的でした。
正直、彼がこんなに魅力的でプレゼンテーションの上手な人だと思ったことは、失礼ながらありませんでした……。
反省してます。ごめんなさい!
実はRSGTとJurgenさんの関係といえば、遡ること10年前のSGT2013で彼を基調講演者として招聘したご縁があるのです。
そのときの彼は講演も淡々と真面目な感じで、会場内でもあまりコミュニケーションを取らず、わたしたちの運営も未熟で、参加者のギャザ感も今には及ばず、英語話者に対する心の言語障壁も高く、わたしが平鍋さんに声をかけられてやっとディナーをセットするという、今思えばひどいものでした。
この会の実行委員長だったわたしは彼をケアしてあげられず、会場の片隅でソファに座っている彼の姿をいまだに思い出して大いに反省しています。
しっかりと注意してくださった平鍋さんには大感謝です。
わたしが(特に海外の)ゲストはぼっちにさせないように、言語障壁をどんどん崩せるように、RegionalとはいえInternationalになれるようにめちゃくちゃ意識するようになったのはこれがきっかけだったりもします。
RSGT2024ではいよいよ念願の全日英語トラック設置ができ、参加者にも講演者にも英語話者が多いです。 参加される方は、異国の地にいて不安を感じているであろう人にぜひ声をかけてあげてくださいね。
わたしのインチキ英語集おいときますので。
Nigel Baker: The Forgotten Piece of Scrum: ScrumMasters!
https://www.gsgams23.com/agenda/session/1182535
有名アジャイルコーチのNigelさんによるノリノリのセッション。ファンが多いのもわかります。
スクラムマスターについて忘れてないかい?というベーシックな話をするセッションでした。
いくつかの主張の中で面白かったポイントは、圧倒的当事者であるスクラムマスターは無責任な第三者的な立場のアジャイルコーチより尊いんだぜという話と、スクラムマスターはネットワークを持つロールなので「私」じゃない「私たち」だという話と、アジャイルのスケーリングフレームワークは安全なのもそうじゃないのもなんだかんだあるけど*2スクラムマスターの役割をスケールさせることが重要という話でした。
とりわけ印象的だったのはプレゼンの冒頭で出てきた消防士とスクラムマスターの例え話で、スクラムマスターの本業をチームのファシリテーターだとしてしまうのは、消防士の本業を下水に落ちたネコチャンをが助けに行く仕事だと言っているのと同じだよという話でした。
そりゃネコチャンを助け出した仕事を悪く言う人はいないしいいことなんだけど、本業はもっと重要なことだろ、という。
ほんとにね。イベントの司会とJiraのチケット入力係で満足するのはスクラムマスターとは呼びませんよ。
世界を救うためにもっと厳しいところに突っ込んでいかなくちゃ。
Dmytro Yarmak: A True Story of Agile Coaching in Ukrainian Armed Forces
https://www.gsgams23.com/agenda/session/1182554
元々ウクライナでアジャイルコーチをやってたDmyさん、急に戦争が始まって軍事会社を作ることになります。
自分にできることは何か? よーしならばアジャイルだ! ということで、アジャイルに運営するのです。
地雷の撤去とか特殊任務とか次々に入ってくる複数の案件を、ばんばんこなさないといけない。Trelloで案件管理をやっていたらすごいことになってしまった!
約10年前のクリミア紛争を経験した兵士はもう退役しているので、彼らに教えてもらう。
ずぶの素人を案件に送り込むわけにはいかないので、ちゃんと計画的にトレーニングをして人を派遣する。
24時間365日戦争をしているわけにもいかないので、ちゃんと休暇を取れるようにしないといけない。
Dmyさんは悲壮さは見せず冗談も交えて話してくれるのですが、戦時下を感じる話ももちろんあり、どんな顔をして聞けばいいのか受け止め方に困りました。
でもこれはアジャイルを実践する話なんです。
同時にこれは時事問題であり、アジャイル実践者に戦争が覆い被さってくることを想像すると、日常と地続きの戦争の怖さにリアリティを感じました。
で、Global Scrum Gathering AmsterdamにはRSGTの実行委員が何人も参加してこの話を聞いていたのですが、特に会議が開かれるでもなく、その場でスカウトして招聘を決めてしまいました。
というわけでDmyさんの話はなんと今回通訳付きでRSGT2024でも聞けちゃいます! お楽しみに!
[Keynote] Mike Walsh: The AI-Powered Organization
https://www.gsgams23.com/agenda/session/1188931
プロフェッショナルスピーカーという感じだった。 プレゼンがうまかったですw
セッション以外の体験
RSGT2023にも来てくれていた欧州勢に会う
オランダ人だったりスイス人だったり、何人かRSGTにも来てくれたことのある人に再会しました。
みんな「また行くよ!」と言ってくれて嬉しかったです。
Zuziも来ていて「RSGTのセッションに採択されたら娘を連れて日本に行きたいの、彼女は日本語の勉強を始めたのよ」と笑顔で採択圧をかけられましたw*3
もちろん彼女も冗談だし、採択にあたっては公正になされたことは記しておきます。
Scrum Allianceの運営と会う
Regional Scrum Gatheringの窓口を担当している女性と会うことができました!
RSGTのScrum Allianceとの渉外は長年わたしが主に担当しているのですが、メールでやりとしていた相手ととうとうリアルに対面することができ、話しかけた瞬間に「ミホ?」と気づいてもらえて嬉しかったです。
その彼女がScrum Allianceを去って別の担当から挨拶のメールが来たのはそれから数週間後のことでした……。ションボリ。
Coaching Clinic大盛況
やはり人気コンテンツです。
欧州のCST(Certified Scrum Trainer)チームが運営していて、呼び込みもめちゃくちゃフレンドリーでした。
わたしはクリニックを受けることはなかったのですが、写真をおいときます。
機会があったら利用したかったなぁ。
Monday MingleというDay1のパーティーで疲れる
過去に参加したGlobal Gatheringはどれも決まって初日の晩にネットワーキングパーティーがありました。
わたしはパーティーが苦手なので、いつもは参加しないか、ちょっと顔を出して様子を見てすぐ帰ったりしていたのですが、今回は流れで参加することになりました。
結果的には、所要時間2時間ぐらいの貸切のクルーズ船でDJが爆音でプレイする中、逃げ場のないわれわれRSGT実行委員たちは最終的に実行委員会を開いていましたw
オランダ名物ヘリング(にしん)のオイル漬け、といってもほぼ生で臭みがまったくないオイリーな刺身ばっかり食べました。ビールはまあまあ。
DJブースの前は最初は閑散としていましたが、遠巻きに見ていた人たちも最終的にはダンスフロアでシンガロングして踊るという、しかもそれが参加者層に合わせてまあまあかなり古い曲というのがなかなか面白かったです。
Apple Watchからは「こんなとこにいたら難聴になっちゃうよ!」とお叱りを受けました。
Regional Scrum Gathering Tokyoへのお土産探し
プロの写真家がブースを構えていて、誰でもプロフェッショナルフォトが撮れるというコーナーがあったのですが、これが体験としてとてもよかった。実行委員はほとんど全員写真を撮ってもらったんじゃないかな。
さっそくRSGT2024でも同様のものを設けてみるつもりなのでぜひ利用してください。
ご自由にお持ちください系のグッズはあったけどあんまり減っていなかった気がします。pinsをつけている人も見なかったw
その他の旅の雑感
欧州に行くのは実に9年ぶりで、ふだん東南アジアにばかり行っているわたしとしては、いろいろ不便がないし涼しいのも悪くないなと感じました。
ご飯は全般的に美味しかったですが、やっぱり個人的には飽きないのはアジアンフードだなぁ。
自由時間にはいろいろお買い物に行ったのですが、日本円が安すぎてしんどかったです。いちいち換算して考えないことにしていました。
VisaやMastercardのタッチ決済が便利。現金を両替する必要がなかった。タッチ決済とクレジットカードだけしか使いませんでした。
ビターバレン(小さくて丸いビーフクリームコロッケみたいなの)がめちゃくちゃ美味しかった。とりたててオランダ料理というものがないことを知った。
ミッフィーかわいい。
チーズ美味しい。
ゴッホ美術館はポケモンとコラボ中。その後転売ヤー対策で配布をやめてしまうゴッホピカチュウのポケモンカードをもらえてラッキーでした。美術館はめちゃくちゃたくさんあるのでまた行かなきゃだなぁ。
大崎でRSGTをやっていたころにアトラシアンのブースに出てくれていた犬山さん、Odd-eの榎本さんと、それぞれお久しぶりの方と夕食を共にする機会があって楽しく過ごせました。
サッカーオランダ代表の試合をヨハンクライフアレナに観に行きグッズで身を固めてにわかオランジェを満喫しましたが、怪我で主力を欠くオランダに対して、エムバペ、グリーズマンとスター揃いのフランスが圧倒的に勝つという試合を見る羽目になりました。久しぶりにスタジアムで見るサッカー、めちゃくちゃ満喫しました。
クラフトビールはいろんな種類があるけど炭酸きつめのヘイジーが多かった気がする。レストランには王様ハイネケンが君臨しているので、二番手グロールシュを見かけることもありませんでした。
興味もないのでCoffeeshop*4には行かなかったけど、夜のスーパーの前でタバコを吸っている人がいるなーと思ったら匂いがそれで驚きました。まあね。
遠くアジアにいると忘れてしまいがちですが、欧州を中心に政治的緊張の高まりを感じるという意味でも特異な年として記憶に残るだろうなと感じました。
- Dmyさんのセッションは満員で立ち見(座り見)が出るぐらいだった
- ウクライナの戦争の影響で航空機がロシア上空を回避するためフライトが長かった
- オランダに向かう日にハマスがイスラエルを攻撃したので急に緊張した
- オランダから帰る日にイスラエルが大規模軍事攻撃のためか退避勧告を出したので緊張した(空港にアサルトライフルを持った軍人が歩いてるんだもの)
帰りはトランジットで入港し18年ぶりに香港の街を歩きました。
空港からエアポートエクスプレスなんてできてて便利だったし、相変わらずビルの足場は竹材なんだなぁ。
発展していて近代的なのは尖沙咀のエリアだけど、やっぱり香港島はよかったです。
早朝着いて食べたお粥が何より美味しかったなぁ。
しかし半日ほどだったにも関わらず、オランダの秋のような気候に慣れた体には暑すぎて疲れました。
RSGTの特異性について
とうとう今回のGlobal Gatheringで実施されなかったコンテンツがあります。
それはOpen Space Technologyです。
RSGTのように、あれだけ多くの人が列をなして自分のトピックを発表し(自分の発表だけでなく他の人のトピックにも耳を傾けていい感じに他の人のトピックとマージしてくれるともっと嬉しいかも😅)、熱心に話し込む様子はなかなか他では見られません。
実際にScrum Allianceの運営から話を聞いたことがあるのですが、Global GatheringでのOSTは盛り上がらず、3日目の最終日にするとみんな来ないから2日目にしてみたとか、いろいろ工夫していたようです。
RSGTではOSTのためだけに現地にかけつける人がいるぐらいです。その参加者の熱気が、RSGTが胸を張れることの1つです。
OST好きのわたしの友人が東南アジア各国から来日してRSGT2024に参加するようなので、ぜひ見て体験してほしいと思っています。
RSGTで「廊下」と言われているアレも、元々はGlobal Gatheringで "Corridor Talk"(corridor=廊下)と呼ばれて推奨されていた、セッション外の非公式な立ち話です。
Open Spaceの一種とも言えるかもしれません。
ギャザリングのギャザ感を特徴づけているのが、参加者同士の自然発生的な廊下の立ち話の発する熱気で、ここにも大きな価値があります。
会場の作り方が違うとかいろいろあるにしても、今回のアムステルダムのGlobal Scrum Gatheringでは、そこまでの熱気やCorridor Talkの盛り上がりは見られなかったように思います。
コロナ禍以降、RSGTの「廊下」はDiscordのチャンネルという形でバーチャルにも存在するようになりました。
RSGTのセッションはあとから誰でも無料で動画を見られるにも関わらず有償で参加するほどの価値はここにあると、わたしたちは考えているのです。
さていよいよ本日12/1日本時間正午より、RSGT2024の現地参加可能なチケット(Standard Ticket)が最後の追加発売となります。
静的な公式サイトの更新はありませんので、Eventbriteを直接開いてくださいね。
オンライン参加可能なチケットは引き続き発売中ですのでご安心ください。
明日は正義さんの「スクフェス神奈川発開催!」の予定です。