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ナイスビア珍道記

ナイ珍って呼んでね

翻訳本2冊『ジョイ・インク』『アジャイルコーチング』

お仕事 Agile イベント

今年の夏ごろから2冊ほど同時進行で翻訳(共訳)をやっていました。 翔泳社からリチャード・シェリダン著『ジョイ・インク』(原題は"Joy, Inc.")と、オーム社からレイチェル・デイヴィス、リズ・セドレー著『アジャイルコーチング』(原題は"Agile Coaching")です。

『ジョイ・インク』

まず1冊目は12/19に発売されたこちら。

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

ジョイ・インク 役職も部署もない全員主役のマネジメント

  • 作者: リチャード・シェリダン,原田騎郎,安井力,吉羽龍太郎,永瀬美穂,川口恭伸
  • 出版社/メーカー: 翔泳社
  • 発売日: 2016/12/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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著者のリチャード・シェリダンは、メンロー・イノベーションズ社のCEO兼共同経営者で、もともと大学でコンピューターサイエンスを学び、プログラマとしてそのキャリアをスタートさせた人です。

彼は自身を「ストーリーテラー」と呼び、メンロー社がいかに喜びにあふれる会社であろうとしてきたか、その物語を世界各地のカンファレンスなどで語る語部としても有名です。

私が彼を知ったのは2014年のAgile Singaporeで彼の基調講演"Build a Workplace People Love - Just add Joy"を聴講したときでした。社員は経理などのスタッフ部門に至るまでペア作業をおこなっているんだとか、そのペアが1つのトーキングオブジェクト(表紙に載ってるアレだ)を渡しながら全社員参加のデイリースタンドアップをやるんだとか、メンロー社員の子供が会社に遊びに来るので衝突注意の看板が社内にあるんだとか、まるで初めておとぎの国に行ったときのように衝撃を受け、目をキラキラさせながら「いつか日本に紹介したい」と思って話を聴いておりました。質疑応答で手を挙げた人に英語版『Joy, Inc』を1冊ずつ渡しており、ともに日本から行った仲間がそれを手に入れたものの、「これはオーガナイザーにプレゼント」などと小粋なことをしやがり、あとで奪ってやると思っていた目論見は崩れたのでした。邪念はダメだなと反省していたところ、お誕生日に別の方からいただくことができました。ありがとう。

でまあ物語の出色は、彼がアジャイルソフトウェア開発宣言が生まれる前夜の1990年代終盤、ケント・ベックのXPと出会い、デザイン思考のIDEOを知り、新しい取り組みをどんどん取り入れ成功し……と思ったらまさに"物語はちと不安定"。会社も不安定になり、メンロー社の設立へ……と言うくだりからの、肉肉しくて意志と思いやりに溢れた会社作りにつながるところです。

経営の本ではありますが、価値を出し続ける、生き生きとした現場を作るためのヒントが多く描かれています。ぜひ手に取ってみてください。

しかし大変失礼なことに、レビュワーへの謝辞をごっそり載せるのを忘れてしまいました。 ご協力いただいた以下の方々に、この場を借りてお礼を申し上げます。

新井剛、今給黎隆、円城寺康人、倉貫義人、木塚あゆみ、田口昌宏、竹葉美沙、田中宏幸、松元健、矢島卓、山口鉄平、山田悦朗 (敬称略)

『アジャイルコーチング』

さてもう1冊は2017/1/16発売予定のこちら。

アジャイルコーチング

アジャイルコーチング

  • 作者: Rachel Davies,Liz Sedley,永瀬美穂,角征典
  • 出版社/メーカー: オーム社
  • 発売日: 2017/01/17
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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アジャイルコーチングに関する本といえば、Addison-WesleyのCohnシグネチャーシリーズの『Coaching Agile Teams』(Lyssa Adkins著、未訳)か、The Pragmatic Bookshelfのこの本が有名でした。いずれも、2010年、2009年に出版されています。

今でこそアジャイルコーチという肩書きを見かけるようになりましたが、2012年のScrum Gathering 上海でわたしがLyssa*1の講演を聴いたときは、失礼ながら日本ではまだ集客もできないだろし翻訳しても読む人は限られてるだろうなと思いながら、日本から持って行った重い本にサインをもらったのを覚えています。

その時と比べれば、アジャイルコーチを生業にしている人は日本ではまだまだ少ないとはいえ微増、アジャイル実践者はどっと増えたと実感しています。となるとスクラムマスターならなおさら、リーダー、マネージャーなどだって、従来のヒエラルキカルな構造でなく、自律的に行動できるチームを育てたいことがあるでしょう。

この本では、著者のレイチェルとリズの2人が、アジャイルなチームを導く立場にある人に向かって、「そんな時はこうやって言うといいのよ」「そんな態度じゃ誰も話なんて聞いてくれないわよ」「そのやり方じゃなかなかうまくいかないわね」と、優しく、時には厳しく教えてくれます。

挿絵もね、手描きでほんわかしていい感じなんですよ。日本語版はがんばりました。SCRUM BOOT CAMP THE BOOKのマンガラフに続いてまたイラストを描くことになるとは。

そしてレイチェルはXPの人*2なので、教科書的になりがちな部分について、「縛られるべきではないわ」みたいなことを言う場面がたびたび出てくるのです。それがすごくいい。

たとえば5章「デイリースタンドアップ」から引用。

目的を見失ってはいけない、ということね。 時計じかけのようなルールどおりのスクラムよりも、活気のある議論を聞いたり、みんなが積極的に関わっている様子を見たりするほうが私は好きよ。

とか

顧客(やその他のステークホルダー)は「鶏」なので、口を閉じておくようにと指示するアジャイルチームがあります。 これはやめたほうがいいでしょう。 というのも、大変失礼ですし、不要な混乱を招きかねません。 チームはステークホルダーとの架け橋を築くべきであり、橋を燃やすようなことをしてはいけません。

とか。

アジャイルチームのメンバーにだってこの本は大いに役に立つはずです。どう思考しどう振る舞えばよりアジャイルであるか、レイチェルとリズはこの本を通してひたすらアジャイルの価値と態度を示してくれているからです。

本書に推薦の言葉を寄せてくださった方々、ありがとうございました。アジャイルコーチやスクラムマスターなどで活躍されている皆さんの言葉は、読者にとっても力強いものだと思います。この場を借りてお礼を申し上げます。

新井剛、家永英治、伊藤宏幸、今給黎隆、川口恭伸、原田騎郎、宮部貴子、安井勉、吉羽龍太郎 (敬称略)

レイチェル来日情報

さて著者の1人、レイチェル・デイヴィスさんは、わたしがオーガナイザーを務めるRegional SCRUM GATHERING Tokyo 2017*3の基調講演のため来日します。

2017.scrumgatheringtokyo.org

残念ながらチケットはすでに完売してしまいましたが、参加者のブログなどの記事がどこかに上がるといいなぁと思って記しておきます。ちなみに、開催当日、会場で『アジャイルコーチング』の先行発売ができるように検討中です*4

カンファレンスに先立って、1/10には『アジャイルコーチング』共訳者の角さん、『ジョイ・インク』共訳者のやっとむさん、そしてわたしの3人でサポートする、こんなセミナーもあります。こちらはまだ参加申し込みが可能です。

waicrew.doorkeeper.jp

謝辞

レビュワーやコメントをくださった方々以外にも感謝を。

2冊とも、声がけをしてくれた共訳者の皆さん、どうもありがとうございます。 アジャイルな人たちとの共同作業はとても勉強になります。

それから、オーム社と翔泳社の方々、どうもありがとうございました。編集さんやご協力くださった方々への謝辞の掲載がなかったので、この場を借りてお礼申し上げます。

すでにお読みくださった皆さん、ありがとうございます。レビューやフィードバックをいただけると大変励みになります。

未来の読者の皆さん、ぜひ手にとって、感想を聞かせてください。

*1:余談だが胸のあいたロングドレスを着ていてめっちゃ綺麗でビビった。

*2:Regional SCRUM GATHERING Tokyo 2017(後述)の基調講演を依頼した時、「私XPの人だからXPの話するわよ?」と言ってきた。「当然OK。日本は特に欧米と違ってXP vs Scrumみたいなのもなくて共存している。ダイバーシティが大事。だからあなたに頼んだの」的な返事をした。欧米のスクラムの集まりにはエンジニアリングをよく知らないプロジェクトマネージャーみたいな奴がそれなりにいて、"スクラムガイ"とか呼ばれて蔑まれている、……という夢を見たことがある人もいるって聞いたことない?

*3:どうでもいい内輪ネタを書くと、このカンファレンスのセッション公募のプラットフォームであるConfEngineというサービスを作ったのはAgile IndiaのNaresh Jainというプログラマなのだが、その彼はこの本に推薦の言葉を寄せている。ちょうどConfEngineの挙動に悩まされていたところだったので、その名前を見つけたときは、「おまえか!」とつい興奮してしまったのが翻訳作業中の思い出。失礼。

*4:初日のランチタイムに先行発売できることになりました! オーム社さんご協力ありがとうございます!