ナイスビア珍道記

ナイ珍って呼んでね

Agile PBL 祭りというイベントをやります! #agilepbl

デブサミといえば昨年Developers Summit 2019で「大学におけるイマドキのエンジニア教育」というタイトルで登壇させていただいたのですが、今年はもっと多くの皆さんに興味を持っていただくために「Agile PBL祭り」というイベントを企画しました。 2020年2月21日(金)にDMM.comさんの会場をお借りして行われる、参加費無料の終日イベントです。

agilepbl.com

去年の登壇に関する記事はこちら。

miholovesq.hatenablog.com

背景と目的

Agile PBLってなんなの?

何度かこのブログでも紹介していますが、PBLというのはProject Based Learningのことで課題解決型学習と呼ばれます。何かしらの具体的な科目を教えるのではなく、社会課題を解決するプロジェクトを実践することで、その中で起こるすべての体験から学んでいくという学習方法です。コンピューターサイエンスの分野であればソフトウェアプロダクト開発やシステム開発などをやります。比較的創立の新しい大学ではPBLを教育の柱にしているところもあります。たとえば公立はこだて未来大学は学部3年次の必修としてPBL科目があり*1、産業技術大学院大学は修士2年の研究室活動がすべてPBLです*2。これまでまでPBLを取り入れてこなかった歴史のある大学でも、文科省主導などによりPBLを導入する大学が増えてきました。
まだ全体で見れば従来型のマネジメントスタイルによる開発プロジェクトが主流ですが、それでも、モダンなチーム開発の手法を取り入れる学校や研究室、チームが増えました。
わたしが2013年に大学で仕事を始めてからは、大学でのアジャイル開発についての関心もニーズも高まってきたところで、毎年非常勤講師としてコースを持たせていただいたり*3、外部講師として出張講義に呼んでいただいたり*4してきました。
従来型のPBLでは、PMがいて(時には先生がPMだったり)、線表引いて、進捗報告して、リーダーがアサインメントを決めて、発表会前に徹夜をする、なんてことも耳にします。念入りにプロジェクト計画やプロダクトデザインをし、あとは実装するだけ(だけだぁ?)で時間切れ終了というのもあります。
それと比べて、チームで課題を設定し解決し、自己組織的にふるまい、イテレーショナルでサステイナブルなリズムを作って活動している、つまりアジャイルな手法を取り入れてPBLを実践しているものをAgile PBLと呼ぶことにしたわけです。

だれが主催者なの?

わたしの他に、筑波大学の川口先生、琉球大学の國田先生、筑波大学/筑波技術大学の渡辺先生という、コンピューターサイエンス分野に携わる4人の教員によって、実行委員会は構成されています。
わたしが大学のお仕事をするようになった中で親しくなった先生方で、本務の研究がありながら学生の教育にとても熱意を持ち、PBLを指導しながらその効果を目の当たりにし、アジャイルなマインドセットに理解を深めてきてくださった方々です。

だれが発表者なの?

PBLでアジャイルをやっていそうな大学の先生方の協力のもと発表者を募集したところ、公立はこだて未来大学、筑波大学、東京工芸大学、広島大学、九州工業大学、琉球大学の6校から、計11チームものエントリーがありました。
わたしたちのツテのない大学で行われている例もあるかと思いますので、次回はさらに広い応募があると嬉しいなと思います。
ゆくゆくは、学生チームも企業チームも分け隔てなく、チーム開発の事例を持ち寄るというお祭りにしたいです。

なぜイベントをやるの?

アジャイル開発の現場に触れている方ならご存知だと思うのですが、日々の実践の中でメンバーが学習していくことそのものに価値があり、"塹壕"に智恵の種が落ちています。そういう理由で、アジャイルはおろかプロジェクト実践経験の乏しい大学の教員にとって、自分たちだけでそれを教えることは大変難しいのです。
たとえば大学の先生と企業の接点は採用を軸とした人事部門であることが多く、よくて共同研究の相手、時にはアカデミアに第二の人生を求めるシニアだったりします。アジャイル開発をやっている最前線の若々しいチームと触れ合う機会なんて、ほとんどないのです。先生が正解を持つことはおろか、先生が教えることも困難なのがアジャイルな実践知なのです。
でも、おそらくこれからの学生はそういう知恵が必要とされる現場に出ていきます。またそういう現場に出ないにしても、アジャイルな考え方が特殊なパラダイムであった時代はとっくに終わりつつあります。
新しいパラダイムにおける知見は現場にたまり、コミュニティにたまり、そこに顔を出す人たちによって伝播されていくというのが流れのようです。
先生も学生も社会人も互いに学べるための仕組みやコミュニティを作ろうという試みの第一歩がこのイベントです。
たとえばわたしが実行委員をやっているRegional Scrum Gathering Tokyoなどに学生が来てくれると話が早いのですが、なかなかそういう機会は実現しません。
大きい問題は、旅費です。
他のチームの話を聞くのって、刺激になりますよね。
学生にとっても同じで、隣のチームの様子を覗くだけでも大きな刺激になるのに、大学をまたいで他のチームの取り組みを知るというのは、想像以上に大きな刺激になるのです。経験した人はそういいます。ですが、そういう学生間の交流をしようとしても、大学の会計上"旅費"の執行のためにはハードルが高く、学生も自腹切るほど裕福ではない。そこで、大学のカネをあてにせず、場を実現しようとしたのがこのイベントです。
スポンサーフィーのほとんどは、参加する学生の旅費に当てられます。

ちなみに、取り入れる大学が増えてきたといっても、所詮PBLを実施する予算がなくなったら終わりです。研究が本務で、教育はその次だからです。新し目の大学でPBLを軸に据えている大学を除けば、そもそもPBLをやらなくなる学校も出てくると思います。
Agile PBLをやってみてこれはいいぞと気づいた先生たちも、お金がなければこの成果の出ているしくみを継続することができないのです。自分たちで稼いで自分たちで教育に還元するなんて、個人には重すぎるというのもよくわかります。そこでゆくゆくはしくみを作りたい、という思惑もあります。

だれのためのイベントなの?

学生のため(発表者の皆さんへ)

売り手市場の昨今はインターンも盛んで、憧れの有名企業で職業体験をしている人も多いと思います。そこで学ぶことが皆さんにとってのリアルな社会です。が、さて、その現場はアジャイル開発をしているらしいのですが、朝会もなかったり、リーダーがアサインメントを決めていたり、細切れになったタスクをこなすだけでふりかえりにインターン生は参加させてもらえなかったり。それってどうなんだろう?
”社会人"ぽさに毒される前に安全な学内で実践したアジャイル開発は、自分たちにはわからないけれど、社会人から見たらとても羨ましいものです。
どこかの学生が発表していた「チームの人数が減ったからこそ、タスクをやるときは必ずみんなで集まるようにした」みたいな簡単なことが、なぜか社会人には難しいんです。行動を起こす前に「それをやって何になるの?」って思ってしまうらしいんです。たとえば人数が減ると、タスクを割り振って個人作業にして、顔をあわせる頻度を下げてしまうんです。
学生の皆さんが体験していることはとても尊くて、そこから社会人が学べることが社会を良くするきっかけになるかもしれません。胸を張って発表してください。
入社してから「こんなの自分が知ってるチーム開発じゃない」って思うような部署に配属されるかもしれません。でも学生時代に経験した改善の手法をその環境でやってみたらいいんです。でも難しい。学生時代に「社会人クソだな」って言ってたような社会人に、気づいたらあなた自身がなってしまっている、なんてことの方が多いでしょう。そのとき、このお祭りに参加してた人たちとつながっているといいことがあるかもしれません。
下に紹介する企業さんは皆さんの将来を応援してくれる企業さんですし、来場する多くの人たちもきっとそうです。

企業のため(スポンサーの皆さんへ)

すでに趣旨に賛同し、スポンサーしてくださっている方々がたくさんいます。大企業から、コミュニティ、フリーランスの個人まで。皆さん、この場を借りて改めてお礼申し上げます。
DMM.comうさぎ組ソフトイーサ株式会社クラスメソッド株式会社株式会社オープンストリームKDDI株式会社株式会社アトラクタアギレルゴコンサルティング株式会社株式会社いい生活TDDワイワイ会BIT VALLEY -INSIDE-佐藤流細澤あゆみAGILE MONSTER侍れっど(敬称略)
このお祭りで発表するのは選りすぐりの学生たちです。皆さんは、おそらく彼らが配属先でいい経験をできるように、会社や社会を耕している方々なのだと思います。アジャイルコーチとして接する会社さんも(つーか自分の会社も)ありますが、共に少しでも若い彼らの将来を明るいものにすることにご協力いただけれ幸せです。
今後とも応援よろしくお願いいたします。

学びたい人たちのため(来場者の皆さんへ)

参加者よりも当日ボランティアの枠が先に埋まったことに、正直驚きました。応募者の中には学生時代にPBLをやっている人たちもいるようです。この場を借りてお礼を申し上げます。きっとPBLでいい体験をできていて、それを活かすことがどこかでできているのだと思います。今回発表する学生さんたちにも、ぜひ皆さんの経験を伝えてあげてください。
それから社会人の皆さん、特にコンピューターサイエンスを修了した人たち、就職して数年経って牙も抜かれてこの先どうしようかなやんでいる若手社会人、頼もしい後輩を迎えたいリーダーさんたち、今の大学生ぐらいの年齢と話す機会がほとんどない中間管理職世代の人たち、ぜひ見にきて刺激をもらってください。
そしてこれはお願いなのですが、けっして学生を評価してやろう、意見を言ってやろう、教えてやろうという気持ちで来ないでください。せっかくの学習の機会をドブに捨てることになりかねません。
発表チームには各7分程度の短いプレゼンの時間が与えられます。そのほかに、デモブースでのプロダクト展示やポスター発表があります。7分間の時間は質疑応答を拾うには短いと思います。ぜひデモブースに行って、学生さんを捕まえて話しかけてみるのをお勧めします。制作したプロダクトもさることながら、チーム活動のプロセスについても聞きに来ていただければと思います。
普段の自分の周りでは起こらないような、経験が邪魔をしてたどり着けないような、キラキラの卵みたいな話が転がっています。
わたしもそうですが、これが学生PBLにハマってしまう人たちの多い理由ではないかなーと思います。
発表者が一方的に話すばかりでなく、参加者同士で交流できる場所を作りますので、有効に活用してください。

参加するには?

こちらからお申し込みください!

agilepbl.connpass.com

初の試みでなにぶん緊張していますが、いい会を作りたいものです。
開催は2月21日なのですが、来場登録締め切りは2月19日の17時です。
皆さまのご来場をお待ちしております!

*1:https://www.fun.ac.jp/funbox201902/

*2:https://aiit.ac.jp/education/

*3:産業技術大学院大学、東京工業大学、筑波大学、琉球大学

*4:公立はこだて未来大学、岩手県立大学、九州工業大学